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初の海外
初の海外。初めてのワールドコン。やることなすこと全てが新鮮だった。
とにかく一番大変だったのはアメリカやコンベンションの雰囲気になじむこと。
渡米前に師から……
「アメリカのファンも話題にしているのはアニメの話やSFの話だし、日本のコンベンションと同じだよ」
と、聞かされていたのでなんとかなるかなと考えていたが、それは甘い考えだった。
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ワールドコン開催前日
初日、ワールドコン開催前日。
会場に着き、当日受付をしようと思ったのだが、どこに行っていいのやら。案内が書いてあっても読めない、人に聞こうにも話せない、聞きとれない。結局、英語のわかる人が来るまで受付さえできない有様。自分が英語を話せないことを棚にあげ、当時はこんなことをひたすら思っていた。
「疲れるだけで全然面白くない、本当にここで俺の好きなSFのお祭りが行われるのか?」
来たことを後悔し始めた頃、宇宙軍の井上さんの手伝いをするため共に一階へ。
すると、なにやら老紳士が一人で近づいてくる。なにやら井上さんの知り合いらしく英語で世間話をしていた。するとその老紳士は自分よりも明らかに年下の私に対して、笑顔で……
「Hello」
と言ってくれた。あのときの握手は時間がたった今でも忘れられない。
暖かくて、優しくて、無言のうちに……
「ようこそ、アメリカへ。日本の若いSFファン!」
と言われた気がした。嬉しかったなぁ〜。
後で聞いたことだが、その人はアメリカの有名なSFファンとのことだった。ワールドコン開催中、他にも何人か有名なSFファンに会うことがあった。皆、同じような雰囲気をしていた。「帰りたいな〜、面白くない」と思っていた私だが、この出会いのおかげでもう少し居てもいいかなと考えることができた。
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いよいよワールドコン開催
二日目。いよいよワールドコン開催。
今回の参加目的は、大会の当日スタッフとして色々と経験を積むことだった。しかし、日本のコンベンションとはスタッフのシステムが全く違うことを知った。
まず仕事を探すのだが、当日スタッフは会場内に設けられた「インターネットラウンジ」なる所に行き、ワールドコンのサイトで仕事を探す。
しかし、仕事の内容はというと「火星のテラフォーミングについての企画をやるので、火星についての知識が豊富な人求める」とか「絵が描ける人求む」などだったらしい。会場設営や荷物運びの仕事もあるにはあるらしいのだが、実際に手伝ってきた人の話を聞くと指示がないのでそうとう戸惑ったらしい。結局、今回は当日スタッフとして働くことは諦め、誘致委員会の手伝いをすることになった。
しかし、この時点ではどこでなにをすればいいのやらという状態で。なにをするわけでもなく、プレサポートの受付に待機してる状態だった。
この状態も辛かった。前日の「俺はここに何をやりに来ているんだ?」の疑問が再び頭の中で復活してしまった。そんな状態で手伝いなどできるはずがなく、この日はさんざんな一日だった。余談だがこの日の夜、髪の毛をいじっていたら、力を入れたわけでもないのに十本以上がごっそり抜けた。心配してるのにチクショー!
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友達できる!
三日目、友達できる!
朝起きると同室で友人の中西さんが開口一番にこういった。
「友達できたぞ!」
あなた、いつの間に? といった心情だった。昨日、私は疲れと時差ボケのためにUKのパーティに参加できなかった。どうやらそのときに中西さんは友達を増やしたらしい。
「名刺も渡したし、ニックネームもつけてもらったんだぞ」
そう、ワールドコン日本誘致委員会が用意してくれた名刺があるのだが、まだ全然配ってない。まぁ、人と話してないんだから当然だ。
この先、一枚も配らずに終えたらどうしましょうか? と先行きを考えて、また落ち込む。
しかし、落ち込んでばかりもいられない。三日目にしてだいぶ雰囲気にもなれ、また前日までの鬱憤も手伝って、今日こそはワールドコンを楽しむぞ! という決意みたいなものが生まれていた。それにはまず「どんどん英語で話さなければ」と部屋をでる時から考えていた。
今日から、ワールドコン日本大会誘致のためのプレサポート受付や、サポーターグッズ販売をすることになっていた。外国のファンと話す良い機会だ。
最初の二時間はあっという間に過ぎていった。たいしたことはできないし、できないだろうと考えていた。だから、次のことは守るようにした。
・一つ、できる限り笑顔であいさつする。
・一つ、同じ失敗を二回しない。
この二つは受付にいる間、ずっと心がけていたことだ。本屋でのバイトが良い経験になっていたことを実感。(偉そうに言っているが、緊張のあまり手が震えていたらしい)
しかし、本格的な会話は常に人任せ。なんとかせにゃならんなと思っていたら、大先輩の一人からこんなことを言われた。
「俺も英語わからん。でも、だいたいの状況で何言ってるかは予想つくだろう?」
おお、確かに。思えば、今までの私は英語できないことを盾にとり、聞く努力や伝えるための努力をしてなかったのではないだろうか? 猛反省。そして、言われたことを実践しようとしたが、そこで交代の時間。残念だったが企画の方も見て回りたいのも事実。中西さんに後を任せて、向かうはディーラーズルームとアートショー。
企画は最初から目……視覚に頼るものに限定して行こうと思った。何故なら英語ができないから。一朝一夕で語学力が向上するわけもないので、実際に見て、触れられる企画に参加しようと思ったわけだ。
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アートショーとディーラーズルーム
まず、行ったのはアートショー。驚いたのはその量。宇宙の風景やロケットを描いたSFアート、ドラゴンや妖精を描いたファンタジーのもの、そして動物の絵が多かった気がする。
普段は絵に全く興味を示さない私も、壮大なSF画やかっこいいドラゴンを従えた美女絵巻が相手だと足が止まってしまった。
絵だけではない。戦闘機や宇宙船の模型(ガレージキット?)やよくわからん民俗衣装なども展示してあった。写真に収めたかったが、禁止だったのが残念。アートショーに展示されている作品は、オークションなどの方法で購入することができ、しかも結構安い値段で買えそう品物もあった。(あくまで一部の物と掘り出し物だけだが)私も前記の戦闘機が欲しかったのだが、事情があって断念。髪の毛が数本抜けた。(泣)
次に行ったのはディーラーズルーム。日程表に地図が載っていたが、それによるとまるまるホール一つを借り切っているじゃないか。そして中はSFグッズやアート、よくわからんステッカーに金属細工、Tシャツなどの店が通路を除いて、全ての場所を占拠していた。本当に日本のアニメやキャラクターグッズが売られていて、笑えた。中でも多かったのは、古本や書籍を売る店で、この中からお目当ての本を探すとなるとえらいことになるなと実感。アメリカはスケールがでかい。
そして、買うものを捜していた私を呼び止める外国の女性。話の中に中西さんの名前が出てくるので、たぶん昨日のパーティで友達になった人だなと想像がついた。これは友達をつくる千載一遇のチャンス! 早速、話そうとするが、聞き取れないので紙に書いてもらう。しばらく解読に時間がかかる。が、その結果、おぉどうやら……
「時間あるなら話でもしましょう」
みたいなことを言いたいらしい。OKと返事をする。
最初は完全に筆談だった。全然、英語できないということを伝えると、彼女も分かりやすいように言い方を変えてくれたり、要点の単語だけ辞書を使って説明したりしてくれた。
今思うに、あれだけ人の話を聞こうとし、相手に自分の意志を伝えようとしたのは初めてだったと思う。一回も辞書を使わずに喋って、言ってることが理解できたときは安心したというか、感無量だった。
受付の交代時間が来て、別れ際に私はこう言った。
「貴女がアメリカに来て、最初の友達だよ」
と言ったら、彼女はなにやら宇宙人のキーホルダーをくれた。
このディーラーズでの会話が、後のJAPANパーティで活かされた。
再び、受付に入ったときは周りを見ていられる余裕ができた。しかし、通っていく人は皆、すごかった。衣装どころか雰囲気までジェダイの騎士になってしまっている人(写真撮らせてもらった)、デススター級の身体を持つ人(高カロリー大国米国!)、有名な作家やその身内の方(ハリィ・ハリスンの息子さんが来てたな)などなど。
先ほどの、ディーラーズルームでの会話でコツをつかんだのか、知ってる単語を総動員して、話す。わからん部分は他の方に任せて、耳学問に専念。すると、なにやらお呼びがかかって……
「余裕があるときは他の人の対応ぶりを見て、自分の悪い所を直すように」
と言われる。周りを見る余裕が生まれてきて、さぁ、やるぞ! と思っていた時に言われたので、しばし受付を離れ、道を歩く人の視点から見てみたり、近づいていって会話話を聞いてみたりと真剣にやった。雰囲気に慣れ、外国人との会話に慣れた所で他の人の応対を見たりするのは勉強になるなと感じた。
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二度目の交代とパーティ
二度目の交代が近づいてくる。
さぁ、どこに行ったもんかな〜と考えていると、グレック・ベアの朗読会があることを教えてもらう。私の中に眠る野次馬根性が目を覚ます。確かに話していることは分からないが、顔を見てくるのも良いだろうと思い、企画が行われる部屋に。しかし、待てども待てども誰一人こない。ギャラリーはおろか肝心のグレック・ベアもこない。おかしいなと思いつつも部屋の前を行ったり来たり。
すると、部屋の前の壁になにやら紙が張り出されている。
解読中……なんと場所が移動!! 道理で誰もこないわけだ。
十五分の遅れを気にせずに静かな部屋の中に入って行くと、おお、やってる、やってる。
相変わらず、何を言ってるかわからなかったが、ただ一つ、なんかのジョークを言ったのは分かった。今までむっつりとしていた表情に笑いが浮かぶ。
なんだ、グレック・ベアもただのお茶目なおっちゃんだな……と感じる。
受付に戻った所、なんか前の方が騒がしい。前日からずっと騒がしいがありゃなんだ? と思っていると
「あれは作家やイラストレイターのサイン会じゃ」
と教えてもらう。
並ぶ人が多い作家。少ない作家。全くいないイラストレイター。
うーん、シビアだ。
すると、そこに大先輩の一人が帰還。手にしているのは、クトゥルーの怪物を紹介した画集。おお、たしかこれは日本でも同じ本が出てたような?
「これどうしたんですか?」
「ああ、この絵を描いてる人がそこにいるからサインしてもらったんだよ」
今まで諸事情により、ほとんど使わなかったお金を握りしめて本を買い、サインしてもらう。初めてのサイン本をゲットして満足、満足。ここにきてようやく、ワールドコンを楽しめるようになる。
「ようやく俺の知ってるSFの雰囲気だ」
と実感。
夜のパーティとマスカレイドに備える。
マスカレイドという聞き慣れない言葉に、なんだろうと思いながら行ってみると、どうやらコスプレの発表会みたいなことらしい。全部は見られなかったが(不覚にも眠ってしまった)かなりの力作から、なんじゃこりゃというものまであった。私は決して幼女趣味ではないが、子供達のやる妖精とかのコスプレの方が見てて、違和感もなく可愛いと思った。
この日の夜は日本でワールドコンをやるため、そして日本のSFを紹介するためにパーティが行われた。別に特別なものではなく、日本と同じようにワールドコン開催の為にやるのもあれば、親睦を深めるためのものもあった。どうやら特別のものではないらしい。日本じゃまず見られんな〜と思った。
パーティ前半は怒濤のような人、人、人だった。会場になったホテルの部屋が(結構、広い)歩くのも難儀する程だったのを記憶している。やっぱり外国の人は身体がでかいな。
人も落ち着いてきた頃に昼間、友達になった人登場! 色々と話をしていると彼女の友人がどんどん来て、挨拶をしていく。ここぞとばかりに名刺を配る。一枚も配れないんじゃないかと案じていたが、配れてよかった!
名刺もらえてよかった! しかし、少し熱心に話すぎて、他の手伝いがおろそかになってしまったのも事実。パーティが終わった後、その事で注意を受けた。
その時は、
「え? 駄目なの? 話せるようにがんがん喋ってたじゃない」
と少し不満に思う。しかし、部屋に帰るって考えてみるに……
「こっちは招待している方なんだから、やっぱり一人のお客さんにかかりきりになるのは良くないな」
と反省する。明日のパーティでは気をつけることと自分に釘をさして就寝した。さすがにそろそろ日本が恋しい。
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ヒューゴ賞は後夜祭みたい!? そして……
四日目、ヒューゴ賞は後夜祭みたい!?
本日はワールドコンのメインイベント、ヒューゴ賞の授賞式。だが、行ってみるまでは、堅苦しい卒業式や説明会みたいな雰囲気で、来る人もまばらなのではないかなと思った。しかし、行ってみると開始前から一種の緊張感というか、期待感というか祭りが始まる前という雰囲気で満たされていた。
入場者の数も前日のマスカレイドより多く、驚いた。この時点で事前の堅苦しいと思っていたイメージは無くなっていた。
式の最中も司会のおっちゃんがおどけて会場を湧かせたり、気に入らない作品がノミネートされていたのか、ブーイングが飛んだり様々だ。しかし、どんなことでも許してしまうような懐の大きさを感じ、
「あぁ、SFクリスマスと同じ後夜祭の雰囲気だ」
と思うと同時に、
「高校やらで後夜祭楽しめなかった分、SFのイベントで楽しむぞ!」
と決意する。
式が終わった後、楽しかったと思うと同時に、もう少しで大会が終わってしまう、ようやく慣れてきて楽しめるようになったのにな……と残念さ、無念さが出てきていた。
ヒューゴ賞が終わるとパーティが開始された。前日の反省を活かしつつ、多くの人に声をかける。前日よりは人が少なかった気がしたが、それでも室内は何処もかしこも外国人。
挨拶し、少ないボキャブラリーや話題の中で何とか共通のものを見つけようと必死だった。その中で一番、話題に上がったのがアニメの話題や横浜のことだった。知り合いになった人の中には後日、メールをくれた人もいるので不精を働く事だけは避け、この出会いを大切にしていくのが今後のワールドコンへの協力だと思う。
今回のワールドコンで培った経験は、初めてのワールドコンに参加する人達、特に英語ができない人や同年代の人に伝えていこうと思う。何故なら彼らと同じ立場に立って、考えたり、動いたりできるのが私だからだ。
了
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