Aug. 30 - Sep. 3, 2007 Yokohama Japan
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■エセ坊主の間諜日記

白土晴一
[2000 チャイコン]

書き手の感性や公開当時の世情などを尊重し、以下の文章はその内容を改変せずに掲載しております。
そのため、一部に不適切な表現やリンク切れの可能性がございますが、あらかじめご了承ください。


 シカゴは遠い。しかし、バンクーバー経由で行くと、もっと遠い。

 初めての海外旅行なのにシカゴ直行ではなく、単独でカナダ経由を選択したのは金が安いということに尽きるのだが、オヘア空港に付いた時にはヘタヘタになっていた。トランクを受け取ってホテルに向かおうと歩いていると、いきなりデッカイ黒人の兄さんが現れた。

「Hotel?」

と尋ねたので、「はいあっと・りーじぇんしー」(白土の英語は日本語なまりなので平仮名で表記)と答えると、いきなり荷物を持ってってしまった。焦って後を追いかけると、兄さんはホテル直通の乗り合いタクシーの運ちゃんらしく、17ドル50セント払えばホテルまで連れってくれるらしい。すでに夜の9時を回り、地下鉄で行くのはいささか怖いので、チップ込みのお金を払い、乗り込むことにする。


 途中、夜のシカゴの風景を楽しむが、「東工大」とデッカくプリントされたTシャツ姿の人物を発見、どこから見てもファンダム常連の草柳さんである。こうなると、あまり海外に来ている気がしない。

 ホテルに着くと、すでにワールドコン参加者らしいSFファンでいっぱい。同室になる筈の林田さんのルームナンバーを聞こうとフロントに向かうが、二階に上がるエスカレーターで柴野さんご夫妻と行き交う。お二人に林田さんと井上さんご夫妻の部屋を聞き込むが、林田さんは部屋にいないらしく、しばらくの間、井上さんの部屋で待たせて貰うことにする。

 林田さんが戻って来た頃には、心身ともに睡眠モードに入っていた。ちなみに、部屋のベッドがダブルの為、林田さんと褥を共にすることになる。ただし、肉体関係はない、念のため……。

 次の日、ホテルの6ドルというオレンジジュースを飲み、翌日からはホテル外の店で朝食をとることを誓う。


 午前中の内にワールドコンの受付に向かうが、思いのほか効率のいいシステムである。第一受付で名前と住所を書くと、隣の第二窓口でパスカードを発行してくれる、続く第三の窓口で首かけ紐を渡してくれる。その間、わずかに三分、日本のSF大会では考えられない速さ、パソコンと分業を駆使した結果であろう。

 日本ファンダムの展示コーナーを設置しようと集まっていると、いきなり英語で話しかけられる。どうも、ドキュメンタリーを取るので日本のSFフアン事情を知っている人がおらんかと言っているらしい。丁度、通りかかった堺三保さんに相手をしていただく、うーーーん、この辺から英語の重要性を痛感し始める。

 本格的な企画はまだ始まっていないらしいので、日本ファンダムの展示コーナーに座っていると、時々、アメリカンなお兄さんやお姉さんが手加減なしの英語でしゃべり掛けてくる。

「日本で本当にやる気か?」
「どこにやる、東京か?」
「日本で流行ってるアニメをおしえろ」「ホテルは高いか」「あたしの姑は日本人で嫌な奴だった」「そもそもNIPPONて何だ。(ポスターにはNIPPON2007と書いてあった)」「手伝ってやろうか?」等など。

 それに対して、真摯に答えようとするから大変である。気合と根性のバンザイアタック英語を駆使し、半ば強引に納得していただく。一、二時間で神経が磨り減ってしまう感じがした。

 そこで息抜きの会場散策に出かける。


 ディーラーズル―ムに行って見ると、日本の同人を即売しようとする雰囲気はなく、SF専門業者の出張販売という感じがする。ただ野田宇宙軍大元帥が翻訳している「シーフォート」シリーズのファインタックさんが自著を売っているのが、同人即売の雰囲気が漂っていると思った。

 続いて、ワールドコン開会式に行ってみる。

 予定が延びているらしく、「どうも予定が狂った。もうちょっと待て」とアナウンスが繰り返されている。まあ当方は暇人であるから、適当に座って待つことにする。

 同行の村谷さんと、ああでもなしこうでもなしと喋っていると、エンタープライズ号の制服を着ている黒人のアンちゃんが隣の席に座った。

 均整の取れた筋肉質のカッコいいアンちゃんである。コスプレも素材がいいと、こうも違うのだろうかと感慨に耽る。アンちゃんは気さくに話してくるが、聞き取れたのは五割くらい。

「俺は空軍の軍人で、レーダーの専門家なのさ」
「りありー?まい・ふれんど・りぶ・いん・にあー・ざ・よこたべーす。」(白土の本当に言いたいこと「それ真実なる哉? 我が友人、米軍基地横田の周囲に住む者あり」)
「そうかい? 俺も横田に行ったことがあるぜ」
「いふ・じゃぱんわ−るどこん・うぃる・よー・かむ・とー・じゃぱん」(「若しSF世界大会、日本で開催されんとす。汝、日本に来たる哉?」)
「う――ん、アメリカ国内でやる時は、大概来るけど。日本遠いな……」
「マネー?トー・エキスペンシブ?」(「問題は金銭なる哉? 汝の収入を推察するに、諸々の経費は高価なる哉?」)
「そうだね。やはり高いね。」
「あい・あんだすたん。」(「米空軍給与、高からず。我、汝の国の国防意識の憂鬱を理解す」)


 ワールドコンで幾度となくした会話である。やはり、日本に来るのは、高くて遠いものらしい。私にとっても、アメリカは遠くて高いのだから当然だろう。

 開会式が始まると、司会の言葉に合わせて手話の通訳をしている。

さすがに、バリアフリーのお国である。車椅子の方々に対する扱い等、考えさせる面は多々ある。

 開会式を始め、大会の公式イヴェントは「トーストマスター」という役割の方がやるらしい。なぜ、「トーストマスター」と呼ばれるのかは分からない。(後日、toastは「乾杯・祝杯の挨拶」という意味があることを知る。つまり、乾杯の挨拶担当ということだろう)スタッフの顔にパイを投げつける行事や、CHICONへ至る道のヴィデオが上映される。そして、司会者が一人の老人を紹介した。

「おお、アッカーマンだ!うおー、生アッカーマンだ!」

生も何もないが、Mrサイファイのアッカーマンおじさんである。やはり、こうした人間に会えるのは、ワールドコンならではだろう。少し感動してしまう。


 しかし、ワールドコンの試練はこれからであった。

 夜にNIPPON・2007主催のパーティーがあるのだ。

「海外のパーティーでは、壁の花を作ってはいけない。とりあえず、喋りかけろ!」

脅されていた私は、意気込んでその開始を待っていた。

「アメリカのパーティーでは壁の花を作ってはいけない。つまらなそうな人間を見かけたら、ホストは喋って喋って喋りまくらなければならない(注・英語にて)」

 日頃、軽い口調の筈の草柳さんが神託でも告げるように重重しく告げたからである「そうか? そうなのか? 草柳さん!」

 こちとら、英会話で喋った経験なんて10年以上していない。しかも、英語教育など忘却の彼方だ。

 しかし、ワールドコン日本誘致委員会主催のパーティーをしなければならない。

 ワールドコンでは、こうしたパーティーが盛んであちこちの部屋で開かれている。彼らに負けてはならない、いざ進め日本男児、後は野となれ! 山となれ!

 そこで、私は少しでも受けを狙おうと、坊さんの格好に着替える。一応、セミプロくらいの坊さんモドキが商売だから、コスプレという訳でもないだろう。


 日本から持ち込んだ日本酒、お菓子、贖罪でなく食材をテーブルに並べ、早川SF、創元SF、富士見ファンタジーなんぞの表紙にテキトーな翻訳を付けて日本SFの紹介コーナーを作る。無論、日本ワールドコンへのプレ・サポート受け付けを据え付け、サポートメンバーを増やす準備も万端にする。

 そして、今や遅しと、敵じゃなくてお客さん(英語を喋るSFモノたち)を待ち構える。

 すると、ぼちぼちお客さんが集まってきて、一人のオッサンが話し掛けてくる。

「ウドンガ、ドドンガ、ジャパン・ビット・パティー?(ウドンガ、ドドンガは、何を言ってか分からない修辞的な表現)」
「いえす、いえす」
「ウドンガ、プレ・サポート、ドドンガ?(おそらく、プレ・サポートをここでしているか?と聞いているらしい)」
「いえす、さんきゅう・ふぉー・ゆうわ・プレ・さぽーと」
「ハハハ、ウドンガ、ドドンガ、ウドンガ。」
「ははは、いやー、いやー(何を言っているのか分からないので、愛想笑いをしてとりあえず頷くのである)」

 すると、彼は笑って立ち去る。

 おおー、一人撃退じゃなかった、対応すること出来た。


 そう喜んでいると、部屋にあふれんばかりのお客さんが入ってきた。どうやら、初の日本ワールドコン誘致ということで、注目されているらしい。

「ホワット イズ ディス?」
「ジャパニーズ・酒、トラディショナル・アルコール・ドリンク」
「ホワット イズ ディス?」
「アマナットー、ジャパニーズ・スイート・ビーンズ」

 などなどの、単語でどうにかなる会話は心配はなくなる。そうなると、英会話が少しずつ慣れてくる、灰色(これはポアロ探偵だから)というより土留め色の脳細胞に詰まった英語単語をなんとか引っ張りだして会話する。

「ホワッツ・クローズ ウドンガ ドドンガ ウドンガ ドドンガ?(どうやら私の坊さん衣装を聞いているらしい)」
「おー、でぃす いず ブッティズム ぷり−すと すたいる」
「アー ユウ ブッティスト?」
「いえす」

 ここで「パティーでの政治と宗教話はご法度」という話を思い出す。そこで、いろいろ弁明する。

「おれっちの考えじゃ、仏教は宗教じゃねぇんでさー、あれは哲学ですよ。仏陀は神じゃねぇ、先生ですぜ。だから、よりよく生きれば、仏教になりやす」

 と言うようなことをたどたどしい英語で喋る。

 「英会話はとぎらせず、ひたすらに続けよ」と教えてくれたのは同行の村谷さんであり、その教えを忠実に守ろうとした私はひたすら知っている限りの英単語を吐き出す。すると、なんとか通じるらしく、もしかすると英語に悪戦苦闘している私に同情してくれたのかもしれないが、相手はなんとか納得してくれる。

 一人二人と会話を重ねると、気持ちよくなってくる。「ランナーズ・ハイ」というのは聞いたことがあるが、「イングリッシュ・ハイ」というのは聞いたことが無い。

 その時の私を目撃したゼロコン実行委員長の木原さんが「白土さんが憑かれた様に英語を喋っている」と評していたが、確かにその通りだったのだろう。

 しばらくして、プレ・サポート受け付けの手伝いにいく。


 予想以上に多いプレ・サポート希望者で混雑している。(あちらの時刊新聞に「すばらしいパーティーだった。ただし受け付けが混雑していた」と書かれたくらい)

 その内、パーティーに来ていただいた巽教授が小柄な女性を同行されていた。

「彼女のプレ・サポートを受け付けて」
「分かりました」

 ニコニコ笑う彼女が書いた申込書の名前を見て驚いた。

エイミー・トンプソン! 「ヴァーチャル・ガール」の著者ではないか! 慌てて握手をして貰う。

 またしばらくすると、酔っ払ったらしい紳士風のオッちゃんが現れた。

「マイ・ネーム・イズ・武林(タケバヤシ)、ハハハ!」

 彼はそう言う。しかし、どう見ても日系の人には見えない。

 そこで申し込み欄の名前を再び見てみる。

 デヴィット・ブリン!ああブリン、あのデヴィット・ブリンではないか!

 再び握手をお願いする。

「プリーズ・カム・トー・ジャパン」

 とお願いしておく。

 パーティー前にハル・クレメントさん、パーティーでエイミー・トンプソンさん、デヴィット・ブリンさんと、作家さんに会えたいい日である。パーティーにはポール・アンダースンさんも来ていたらしいが、私は気付かなかったのが心残りである(後日、ロイス・M・ビジョルドさんとも握手する)。


 パーティーもそろそろ終わりに近づき、人もまばらになってきた。

 英語にも少しはなれてきた緩みか、アメリカ人と軽口を叩くことも出来るようになった(実際はどうか知らないが、意識の中では軽口を叩いている気分であった)。

 最後に大柄でスーツを着た紳士がプレ・サポート受付に現れた。

 以下の会話は、私がその紳士としたと思われるものである。(少なくとも、記憶の中ではこうなのだ)

「プレ・サポートしたいのだが?」
「プレ・サポートを感謝します。ここにお座りください」
「ここでいいのかい?」
「もちろん、結構です。」

 彼は申込書にペンを走らせる。

「どうか2007年に日本に来てください」
「おお、時間とお金が許せば行きたいね」
「そうですか、来日はやはり難しいですか?」
「簡単ではないね。しかし、私は日本に興味があるから、行ってみたいとは思うよ」
「日本に興味がありますか?」
「ああ、日本の翻訳家も知っているよ」
「誰ですか?」
「ミスター・ウチダ、あと何人かだよ」
「内田昌之? 詳しいですね〜〜〜〜」
「そうでもないさ」

 なかなか貫禄がある紳士は5分程の会話で去っていった。

 私は温和そうな紳士との会話に満足していると、近くで会話を聞いて村谷さんが背中を突付く。

「何ですか?」
「白土さん、今の人知ってる?」
「ええ、知りませんよ。でも、なかなかの人物みたいですね。物腰柔らかいわりには、貫禄あったし……」
「そりゃ、そうですよ」
「ええ、村谷さん、今の人、知ってるんですか?」
「知らないけど、ネームプレート見て分かりました」
「誰です?」
「マイク・レズニックさんですよ」
「へ?」
「………………」
「って、「キリンヤガ」の? マイク・レズニック? ええ! マイク・レズニック!!!」

 しまった! 気付かなかった!

 会った作家さんと握手する筈か、レズニックで失敗するとは!

 最後の衝撃を最後にパーティーは終わっていった…………。

 あとは寝るだけ、シカゴの夜はふけていくのであった(やや講談調にて)




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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